工場で働きはじめた。
約30年やってきた仕事とは、まったく違う仕事だ。
初日は、ほとんど何もできなかった。
だから一日中、バリ取りをしていた。
小さな部品を指でつまんで、余計な部分を削る。
それを何度も繰り返した。
休憩時間以外は、ほとんど動きっぱなしだった。
仕事が終わるころには、指が痛くなっていた。
小さなものを長い時間つまんでいると、指は痛くなるらしい。
そんなことも、今まで知らなかった。
僕は定時で帰った。
ほかの社員は、そのあとも残業をするらしかった。
駅まで歩きながら、いつか僕も残業をするようになるのだろうか、と考えた。
よく分からなかった。
帰りの電車では、前の会社のことを思い出した。
辞めたばかりなのに、不思議と良かったことばかり思い出す。
30年近くやってきた仕事だから、できることも多かった。
何をすればいいのかも分かっていた。
今は何も分からない。
ただ、前の会社を辞めたのには、それなりの理由があった。
スタッフから感じる精神的な圧。
意味のない待ち時間。
そして、このまま65歳まで同じことを繰り返すのか、という気持ち。
あのときは、それが嫌だった。
だから辞めた。
今になって都合よく忘れるのも違う気がする。
新しい会社にも、今のところ一つ良いところがある。
電車が下り方面なので、座って通勤できる。
毎日のことだから、これは案外大きい。
試用期間は3か月ある。
3か月後、僕がこの仕事をどう思っているのかは分からない。
慣れているかもしれない。
嫌になっているかもしれない。
別の仕事を探しているかもしれない。
今はまだ何とも言えない。
とりあえず、働いてみる。
51歳。
工場勤務が始まった。