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  • 第3話 51歳、工場で働きはじめた

    工場で働きはじめた。

    約30年やってきた仕事とは、まったく違う仕事だ。

    初日は、ほとんど何もできなかった。

    だから一日中、バリ取りをしていた。

    小さな部品を指でつまんで、余計な部分を削る。

    それを何度も繰り返した。

    休憩時間以外は、ほとんど動きっぱなしだった。

    仕事が終わるころには、指が痛くなっていた。

    小さなものを長い時間つまんでいると、指は痛くなるらしい。

    そんなことも、今まで知らなかった。

    僕は定時で帰った。

    ほかの社員は、そのあとも残業をするらしかった。

    駅まで歩きながら、いつか僕も残業をするようになるのだろうか、と考えた。

    よく分からなかった。

    帰りの電車では、前の会社のことを思い出した。

    辞めたばかりなのに、不思議と良かったことばかり思い出す。

    30年近くやってきた仕事だから、できることも多かった。

    何をすればいいのかも分かっていた。

    今は何も分からない。

    ただ、前の会社を辞めたのには、それなりの理由があった。

    スタッフから感じる精神的な圧。

    意味のない待ち時間。

    そして、このまま65歳まで同じことを繰り返すのか、という気持ち。

    あのときは、それが嫌だった。

    だから辞めた。

    今になって都合よく忘れるのも違う気がする。

    新しい会社にも、今のところ一つ良いところがある。

    電車が下り方面なので、座って通勤できる。

    毎日のことだから、これは案外大きい。

    試用期間は3か月ある。

    3か月後、僕がこの仕事をどう思っているのかは分からない。

    慣れているかもしれない。

    嫌になっているかもしれない。

    別の仕事を探しているかもしれない。

    今はまだ何とも言えない。

    とりあえず、働いてみる。

    51歳。

    工場勤務が始まった。

  • 第2話 51歳、資産を崩して生きていく(予定)

    工場に転職すれば、給料は大きく下がる。

    これは仕方がない。

    30年間やってきた仕事をやめて、51歳の未経験者が工場で働くのだから、以前と同じ給料をもらおうという方が無理な話だ。

    では、足りない生活費をどうするのか。

    答えは単純だ。

    資産を崩す。

    僕はこれまで結婚もせず、将来のことをそれほど真剣に考えることもなく生きてきた。

    それでも、お金だけは少しずつ貯まっていった。

    そして5年ほど前、投資を始めた。

    何か壮大な計画があったわけではない。

    ただ、銀行に置いておくよりはいいだろう。

    その程度だった。

    ところが5年が経ち、気がつけば、今すぐ使える資産が3,000万円に近づいていた。

    そこで少し考え方が変わった。

    お金というものは、増やすためだけにあるわけではない。

    使ってもいいのだ。

    当たり前のことなのだけれど、僕はそのことにようやく気がついた。

    65歳まで嫌になった仕事を我慢して続けて、その代わりに通帳の数字を増やす。

    それもひとつの生き方だと思う。

    でも、僕はもういいかなと思った。

    お金を使って、働き方を変える。

    給料が下がった分だけ、自分で貯めてきたお金に助けてもらう。

    そんな使い方があってもいいんじゃないかと思った。

    現在、資産はR証券に約2,700万円、S証券に約170万円ある。

    ほかにiDeCoもあるが、こちらは60歳まで原則として引き出せない。

    だから、今回の「資産崩し」では考えないことにする。

    まず最初の2年間は、S証券にある約170万円から、給料だけでは足りない生活費を補っていく予定だ。

    月にいくら必要になるのか。

    工場で実際に働き始めてみなければ、まだ正確には分からない。

    予定よりお金を使うかもしれないし、案外使わないかもしれない。

    そして2年後、S証券のお金がなくなったら、その先をまた考える。

    ずいぶん行き当たりばったりな計画に見える。

    実際、そうなのだと思う。

    でも51歳になって、ようやく僕は、

    お金を減らさないために生きるのではなく、少しずつお金を使って、自分の時間を取り戻してもいいんじゃないか。

    と思うようになった。

    これがうまくいくのかは、まだ分からない。

    だから、このブログで記録していこうと思う。

    資産がどれくらい減ったのか。

    生活はどう変わったのか。

    そして何より、30年間続けた仕事を離れたことを、僕が後悔するのかどうか。

    「世界の終わりと資産崩し」は、たぶんここから始まる。

  • 第1話  51歳、30年続けた仕事を辞める

    51歳になった。

    気がつけば、映像に関わる仕事を30年近く続けていた。

    長い時間だったと思う。

    でも、働き方も不規則なその仕事を65歳まで続けている自分の姿を、僕はもううまく想像できなくなっていた。

    たぶん、どこかで希望という燃料が切れたのだ。

    いつ切れたのかは分からない。ある朝突然、メーターの針がゼロを指していた、というようなものでもない。

    ただ少しずつ、確実に、仕事を続けるための何かが減っていった。

    そして僕は、工場で働くことを決意する。

    これまでとはまるで違う仕事だ。もちろん給料も下がる。

    足りない分は貯金や投資資産から補うことになるだろう。数字だけ見れば、あまり賢いやり方には見えないかもしれない。

    「51歳から、そんなことをして大丈夫なのか?」

    僕にも分からない。

    だから、とりあえず記録してみようと思う。

    工場で働く51歳の身体がどうなるのか。給料が減ると生活はどう変わるのか。貯金はどんな速度で減っていくのか。

    うまくいくかもしれないし、いかないかもしれない。

    でも、そのどちらにしても、書いておく価値はある気がしている。